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睡眠って実は謎だらけ!何のためにとるの?「2種類の睡眠」がある理由って?

毎日当たり前のようにとっている「睡眠」ですが、みなさんの中

毎日当たり前のようにとっている「睡眠」ですが、みなさんの中には「睡眠中、体や脳には何が起きているんだろう」「睡眠ってどうして必要なんだろう」などの疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、謎に包まれた睡眠の役割や働きなどについて解説します。

睡眠には謎が多い

睡眠には謎が多い

私たち人間は人生のおよそ3分の1を寝て過ごしますが、仮に全く睡眠をとらないとどうなるのでしょうか?

それについて調べた研究が1980年代にアメリカで行われました。ラットが寝たら自動的に起こす機械・断眠装置を開発し、ラットを眠らせない実験です。実験中、ラットたちは食欲が過剰になり、食べる量が大きく増えました。にもかかわらず、体重はどんどん激減し、体温も下がり、3週間でみんな死んでしまったのです。

この研究から40年近くが経とうとしていますが、なぜ睡眠をとらないとこのような症状を呈して死に至るのか、いまだにわかっていません。睡眠の役割は、生物学上の大きな謎だと言えます。

睡眠の役割は、エネルギー温存だけではない

睡眠の役割は、エネルギー温存だけではない

睡眠は、単にエネルギーを節約・温存している状態ではないと考えられています。というのも、「動物はわざわざ積極的に睡眠をとっているのではないか」と伺える事例があるからです。

例えば、オットセイは海で寝る場合と陸で寝る場合がある動物ですが、海で寝る場合は左右の脳が半分ずつ眠ります。脳波で見ると、半分の脳が寝ているときにもう片方は起きているのです。実際、起きている脳に支配されている体は動いて泳ぎ続けたりしています。

このような睡眠の取り方をするのは、呼吸や息継ぎ・敵への警戒をする必要があるからだと考えられています。

また、リスは冬眠する生き物ですが、彼らは冬眠中に定期的に起きます。この際必ずとる行動のひとつが、「睡眠」なのです。このことから、睡眠は冬を最小限のエネルギーで乗り切るための冬眠とは異なる可能性があるものだと分かります。

こういった事例を見ると、睡眠は単なるエネルギーの節約・温存のためではなく、さまざまな能動的役割があると考えられます。

睡眠の役割のひとつは、成長ホルモンの分泌

睡眠の役割のひとつは、成長ホルモンの分泌

「生きていくうえで睡眠が必要な理由」は、いまだはっきりとはわかっていません。しかし、間違いなく起きていることのひとつとして、成長ホルモンの分泌があります。

よく「寝る子は育つ」という言い方がされますが、それはまさに的を射ています。成長ホルモンには、背を伸ばしたり体の成長を促したりする役割があります。またそれだけではなく、新陳代謝を高めて肌の傷やトラブルを修復する作用もあるといわれています。

成長ホルモンが盛んに分泌されるのはいつか

1968年に、「睡眠中に血中の成長ホルモンがどう変化するのか」を定期的に計る研究が行われました。

被験者が22時に寝て以降、朝まで定期的に成長ホルモンの血中濃度を計ります。すると、22時から24時頃にかけて血中の成長ホルモンが上がることがわかりました。また、24時から起床までの間の濃度は比較的低いままでした。

この研究により、「22時から24時前後に寝るのが重要なのではないか」と言われるようになったのです。よく「22時から深夜2時に寝ることが美肌につながる=お肌のゴールデンタイム」と言われるようになったのは、この説を根拠としていると考えられます。

しかし実は、その後この考え方は変わってきています。

被験者それぞれに好きな時間に寝てもらって、寝た時間を0として、そこから血中の成長ホルモンの変化を調べる実験が行われたのです。0地点は、ある人の場合は夜10時かもしれませんし、別の人の場合は夜中の2時かもしれません。それでも、実験結果を平均すると、就寝後3時間後に同じようなことが起こることがわかったのです。

つまり、よく言われる「22時から深夜2時がお肌のゴールデンタイム」というのは、あまり正しくないのです。自分のタイミングで深い睡眠をちゃんととれれば、それは何時でも良いと考えられます。

睡眠には2種類のタイプがある

私たちは寝ている間に、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という2種類の睡眠を行き来します。そのパターンのことを専門用語で「睡眠構築」と言います。

睡眠には2種類のタイプがある

ノンレム睡眠とは

ノンレム睡眠中はリラックスしているので、副交感神経系が優位の状態です。呼吸や心拍がとても落ち着いていて、そのときに脳では非常に特徴的な脳波が出ています。これは徐波、あるいはデルタ波とも呼ばれる脳活動です。

この徐波にはさまざまな作用があることが近年わかってきています。

例えば、徐波が出ると、感覚入力が遮断されます。つまり、何か音がしても脳があまり活性化しないため、ほとんど気になりません。また、記憶の定着作業や前項でご紹介した成長ホルモンの分泌にも関連しています。

レム睡眠とは

レム睡眠では心拍や呼吸が非常に不規則になり、交感神経系が優位な状態です。しかもそれが不定期に強くなったりするので、自律神経の嵐といったような言い方もします。

レム睡眠中は鮮明な夢を見ます。レム睡眠中の人を起こすとほぼ間違いなく夢を見ていたと言います。また、眼球が素早く動いています。寝ているパートナーやお子さんを見たとき、目元が明らかにキュッキュッと動いていることがあるかと思います。そういうときはレム睡眠です。

レム睡眠中のもうひとつの特徴は、体が脱力状態になる、金縛りのような状態になることです。そのため、寝返りを打ったり動いたりすることはあまりありません。寝返りや動きがあるのは、どちらかと言えばノンレム睡眠時です。

レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルは、高次な脳機能が発達したヒトを含む一部の脊椎動物のみに見られます。そのため、高度な脳機能に睡眠構築が関わっているのではないかと考えられています。しかし、その制御機構は不明な点が多く、まだまだ研究段階にあります。

レム睡眠とノンレム睡眠の割合は年齢とともに変化していく

レム睡眠とノンレム睡眠サイクルのおもしろいところは、年齢とともにその割合が大きく変化していくところです。

レム睡眠とノンレム睡眠の割合は年齢とともに変化していく

レム睡眠とノンレム睡眠の割合をさまざまな年齢で比較した研究報告があります。それによると、生まれて1日以内の赤ちゃんは睡眠の50%がレム睡眠です。それが生後6か月くらいになるとだいぶ減り、若い青年では22%、高齢者になると13%と減少していきます。

このことから、脳の発達や老化には睡眠構築が大きく関わっていると考えられます。また、睡眠構築の異常を改善することで、加齢に伴う体の不調や疾患を改善できる可能性も期待できます。

睡眠構築の補正には睡眠薬では限界がある 

しかしながら、今のところ睡眠構築を補正できる万能の睡眠薬は存在しません。
睡眠薬にはさまざまな種類があります。中にはノンレム睡眠を増やす作用が見られるものもありますが、これらの睡眠薬はレム睡眠を減らしてしまう可能性も示唆されています。また、他の種類の睡眠薬には、レム睡眠を増やすことができるものの、深いノンレム睡眠の増加の作用が限定的だと考えられているものもあります。

まとめ

今回は、謎に包まれた睡眠について、現時点でわかっている役割や種類・特徴などについて解説しました。

近年では、睡眠構築のメカニズム解明、つまりノンレム睡眠とレム睡眠サイクルの解明が、私たちの健康に大きく貢献するのではないかと考えられています。まだまだ謎の多い「睡眠」という現象ですが、今後の研究での進展が期待されています。