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ノンレム睡眠の役割とは?記憶の定着に重要ってホント?

睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類

睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類があり、それぞれ異なる働きをしています。ノンレム睡眠とレム睡眠について知っておくと、睡眠の質向上にも役立つはずです。今回は、これらのうちのノンレム睡眠について詳しく解説します。

ノンレム睡眠とは

ノンレム睡眠とは

ノンレム睡眠とは

ノンレム睡眠中は体も脳もリラックスして、副交感神経系が優位の状態です。呼吸や心拍がとても落ち着いています。ノンレム睡眠時には、以下のような現象が見られます。

  • 成長ホルモンの分泌が上昇
  • ストレスホルモン「コルチゾール」の分泌は大幅に低下

  • 脳細胞の隙間が拡張する(→βアミロイドなどの老廃物を流しやすくなると考えられている)
  • 神経細胞同士をつなぐシナプスが形成される(→記憶を形成するのではないかと考えられている)

ノンレム睡眠中に出る特別な脳波、「徐波」の役割

ノンレム睡眠中は、徐波あるいはデルタ波という非常に特徴的な脳波が出ています。

この徐波にはさまざまな作用があることが近年わかってきています。

徐波は、外から入ってくる感覚入力を遮断することで睡眠を深くさせます。何か音がしたり光が入ってきたりしても脳が活性化しないため気づかず、眠りは妨げられません。

また、記憶学習あるいは脳の柔軟性にも深く関与していると考えられています。

脳の神経細胞・シナプスが形を変化させることで、脳には記憶が蓄えられます。その際に徐波が大きく関係しているのです。そのため、徐波を人為的に強めることで、記憶学習能力が高まると考えられています。

このほか、メカニズムはわかっていませんが、徐波を強めるとホルモン分泌にも影響が出ることがわかっています。

記憶とノンレム睡眠の関係

記憶とノンレム睡眠の関係

ノンレム睡眠は記憶と密接な関係があるとされています。

ドイツのグループが2007年に発表した、睡眠と記憶との関係に関する研究をご紹介します。

【実験内容】

被験者に課題を記憶させるタスクを与え、そのときにバラの成分が入った香りを嗅がせます。

課題の内容は絵の描いたカードの場所を覚えてもらうというもの。簡単に言えば、トランプゲームの神経衰弱のような課題です。

その後グループを分けて、グループAには寝ているとき(レム睡眠中・ノンレム睡眠中それぞれ)にも同じ香りを嗅がせます。グループBには、起きて違うことをしているときに同じ香りを嗅がせます。

そして次の日、覚えさせた課題をテストし、成績を見ます。

この実験の結果は以下のようになりました。

【実験結果】

ノンレム睡眠時に香りを嗅がせると、成績は格段に良くなった

・起きて別のことをしているときに香りを嗅がせても、成績アップはしなかった

この実験結果から、ノンレム睡眠中に記憶を定着させる作用があることが推測されます

また、香りを嗅ぎながら勉強をすることで、脳の海馬という記憶学習に重要な部位に、勉強した内容と香りが一緒に定着されるのではないか。そして香りをもう一回嗅がせることで、海馬にある“勉強した内容が入った引き出し”が刺激されて、それが記憶定着に良い作用を与えたのではないかと考えられます。

この研究結果の興味深い点は、「記憶の定着が良くなるのはノンレム睡眠のときだけ」というところです。

以前は、レム睡眠中は夢を見るので、レム睡眠中に記憶の整理が行われていると考えられていました。そのことからレム睡眠が重要だと考える人が多かったのです。しかし、この研究以降、最近ではノンレム睡眠と記憶の研究が盛んに行われるようになりました。ただこれは、レム睡眠が記憶の整理に関わっていないという意味ではありません。レム睡眠にはまだまだ不明な点が非常に多いのです。

認知機能とノンレム睡眠の関係

認知機能とノンレム睡眠の関係

認知機能とノンレム睡眠は大きな関連があると考えられています。2013年に発表され、当時非常に話題になった研究があります。

アメリカの博士たちがマウスを使って、脳の間質液(神経細胞など脳をつくる細胞全体が浸っている液体)の中にある、アルツハイマー病の原因物質のひとつ「βアミロイド」が、どのようにして除去されるかについて調べたのです。

この研究結果では、ノンレム睡眠中に急速にβアミロイドが除去されることが判明しました。グリンパティックシステムという、いわば脳の中にある下水道のようなものが、ノンレム睡眠中に活性化するのではないかと考えられています。

さらにヒトでの研究により、脳脊髄液(脳とクモ膜の間を満たしている液体)の流動がノンレム睡眠中に波を打つように流れたり止まったりを繰り返すことも発見されました。このことから、脳に溜まったβアミロイドなどの老廃物は、ノンレム睡眠中に脳脊髄液によってある程度洗い流されているのではないかと考えられます。

つまり、βアミロイドをはじめとする老廃物は、先のグリンパティックシステムによって脳の神経細胞の近くから下水道を介して脳脊髄液に捨てられ、さらにその脳脊髄液によって洗い流れることによって除去されるのだろうというわけです。

これらの研究により、認知症の予防にはノンレム睡眠が非常に重要だという可能性が指摘されています

起きているときに神経細胞が活動したことで溜まった老廃物であるβアミロイドを、ノンレム睡眠中に処理して除去するーーまるで汚れを水といっしょに下水道に流すようなシステムだと言えます。

まとめ

今回ご紹介したように、十分なノンレム睡眠の確保は、人間が健やかな毎日を過ごすのに大きな影響を与えます。

成長ホルモンの分泌によって細胞の修復がなされたり、ストレスホルモン分泌が抑制されることでリラックス・疲労回復ができたり、記憶の定着もノンレム睡眠中に行われていると考えられています。また、近年の研究から、認知症の予防改善にも大きく関与していることがわかっています。

ノンレム睡眠を十分に確保できるよう、睡眠の質にこだわり睡眠時間をしっかりとれるように心がけてみてください。