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【Vol.1】「脂肪」はからだに悪いもの? 実は「もっと摂るべき脂肪」もあります

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肥満による生活習慣病の危険性が叫ばれる昨今、「脂肪をなるべく摂りたくない」と思う人も多いかもしれません。やせたいという思いの高まりから、極端な「油ぬきダイエット」が流行した時期もありました。

しかし、脂質の機能があきらかになるにつれ、健康に不可欠な存在であることがわかってきました。

脂質にはどのような機能があるのか。

どのような脂質を摂れば健康に役立てることができるのか。

永年に渡り脂質の研究に注力されている国立国際医療研究センターの清水孝雄先生に解説していただきました。

よい「脂」を摂るには

Image よい「脂」を摂るには

皆さんは食品の脂肪というと何を思い浮かべるでしょうか?食肉や乳脂肪、ごま油、オリーブ油などの植物性脂肪。魚では脂の乗った鰤や、マグロのトロを思い浮かべた人もいるかもしれません。

脂肪は私たちにとって身近な栄養素ですが、摂りすぎれば肥満や生活習慣病の原因にもなってしまうのが問題点です。

では、脂肪は極力摂らない方が健康によいのでしょうか?
答えは「No」です。
脂肪/脂質はタンパク質・糖質と並ぶ3大栄養素の一つで、ヒトの体にとってなくてはならないものです。そこで、脂質にはどのような機能があるのかご紹介しましょう。

脂質の機能

【脂質の機能①】効率のよいエネルギー源

脂質の第1の特徴は栄養価の高さです。たんぱく質や炭水化物を1g食べると4kcalのエネルギー源となりますが、脂質は1gで9kcalのエネルギー源になります。少量でも大きな活力になる非常に効率のいいエネルギー源なのですが、運動不足になりがちな現代ではなかなかエネルギーが消費されず、余剰分は体内で中性脂肪として蓄えられ、肥満の原因となってしまいます。

【脂質の機能②】細胞膜をつくる成分

人間は60~100兆個の細胞1)からできています。脂質は私たちの全身の細胞1つひとつを包む細胞膜や、細胞内を「細胞小器官」(オルガネラ)と呼ばれる小さい部屋に隔てる壁を作る原料となります。

【脂質の機能③】細胞間の情報を伝達する

脂質の中には細胞間の情報伝達機能を持つものもあります。私たちの体内では細胞が常に連携して働いており、体の状態や環境に応じてたとえば体温を調節したり、血圧を上げたり、血液を固めたり、溶かしたりしています。多くの細胞に一定の指令を届けるには、ちょうど高校野球の伝令選手のように細胞間を飛び回る情報伝達役が必要です。ホルモンなどがその役割を担っているほか、「生理活性脂質」と呼ばれる一部の脂質にも情報伝達機能があります。プロスタグランディンなどと呼ばれる物も生理活性脂質の一種です。

【脂質の機能④】神経や皮膚を守る

さらに最近は、新たに「バリア」と呼ばれる機能が明らかになり、脂質の第4の機能として提唱されています。その一つは神経を守る働きです。神経は、体内で電気信号を送っており、混線すれば電線のようにショートしてしまいます。そこで、脂質が1本1本の神経に対して絶縁体のように周囲を覆い、神経が混線しないように守っていると考えられています。また、皮膚でも脂肪はバリアの働きをし、肌を保湿して健やかに保ったり、温度環境の変化から体内の臓器を守ったり、細菌の侵入を防いだりする役割を果たしています。

このように脂質には脂質独自の機能がある大切な栄養素です。ただ、肥満や生活習慣病といった問題を起こさないためには、「摂りすぎないように注意すべき脂肪」と、「もっと摂るべき脂肪」を理解して摂ることが大切です。

「もっと摂るべき脂肪」とは

では、どのような脂肪が「摂るべき脂肪」なのでしょうか。

身の回りの食品の脂肪には常温では液体のものと固形のものとがあることをご存じでしょう。このような性質の違いがどこから来るかというと、主として脂質に含まれる「脂肪酸」の違いによるものです。脂肪酸は大きく分けると「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種があります。

「もっと摂るべき脂肪」とは

飽和脂肪酸=摂りすぎてはいけない脂

飽和脂肪酸は40℃以上の温度では溶け2)、常温では固まりやすい脂肪です。

バターやラード、肉などの動物性脂肪に多く含まれていますが、一部ココナッツや落花生などの植物にも含まれています。

ウシなど動物の体内では液体ですが、動物より体温が低いヒトの体内では固まりやすくなります。そのため、摂りすぎれば血流を悪化させ、動脈硬化や生活習慣病の原因となります。厚生労働省の「食事摂取基準」でも摂取量の上限が定められている、「摂りすぎてはいけない」脂肪です。

不飽和脂肪酸=もっと摂るべき油

不飽和脂肪酸は常温では液体のままの「油」です。2)主に植物油と魚油に含まれています。魚は冷たい水の中を泳いでいるため、魚油の脂肪酸は低温でも固まらないのです。

不飽和脂肪酸の一種「オメガ6系脂肪酸」にはアラキドン酸や、サラダ油やごま油に含まれるリノール酸などがあります。また、「オメガ3系脂肪酸」には亜麻仁油、紫蘇油などに含まれるα—リノレン酸のほか、魚油に豊富に含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)があります。EPAは血栓防止作用がありますし、DHAは脳神経、網膜、精巣などに多く存在し重要な役割を果たしています。(「機能性脂質」=詳しくはVol.2で紹介します。)

欧米人はオメガ3系脂肪酸を一部の植物性脂肪から体内でつくりだすことができます。魚を摂らずとも、亜麻仁油を摂れば自分で合成できる酵素を持っているわけです。ところが、60%の日本人は体質的に、植物性脂肪からはオメガ3系脂肪酸を合成しにくいことがわかっています。3)ですから私たちはオメガ3系脂肪酸を主に魚などの食品から摂取しなければならず、国の栄養摂取基準では「必須脂肪酸」に指定されています。特に妊娠中のお母さんは、胎児の脳や神経をつくるためにより多く摂取することが推奨されています。

オメガ3系脂肪酸が不足している!?

日本人にとって、オメガ3系脂肪酸の最も優れた供給源は「魚」です。魚油にはDHAやEPAなどヒトにとって重要なオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれています。

日本がこれまで世界の中でもトップクラスの長寿国であるのも、海に囲まれた地の利を活かして、お魚を豊富に食べていたことが健康の源だったのではないかと考えられます。しかし、最近は若い世代を中心に肉食が増え、魚ばなれが進んでいます。昔は日本人のたんぱく源は圧倒的に魚だったのに、現在は肉が上回るようになり、魚の消費量は年々減少しています。食の欧米化が進み、洋食が日本人の家庭食として一般化したことや、ハンバーガーショップや焼き肉店など肉を気軽に食べられる外食店が急増したことから、魚を食べる機会が減っているのでしょう。

近年の日本では、高コレステロール、動脈硬化、糖尿病などさまざまな健康問題が増加しています。このような健康状態の悪化には、魚ばなれによるオメガ3系脂肪酸の欠乏が関連していると考えられます。

オメガ3系脂肪酸が不足している!?

もっと魚の脂質を摂りましょう

Image もっと魚の脂質を摂りましょう

健康のためによい脂質を摂ることはとても大切です。特にオメガ3系脂肪酸の豊富な魚をたくさん食べていただきたいと思います。ただ、オメガ3系脂肪酸は不安定で酸化しやすいので、できるだけ新鮮な魚を食べたいもの。不足する場合はサプリメントを補う方法もあります。

出典:

  1. 八杉貞雄編:医学・薬学系のための基礎生物学,2009,講談社サイエンティフィク
  2. 吉村成弘:大学で学ぶ身近な生物学,2015,羊土社
  3. K.Nakayama, et al., Human Genetics volume 127, pages685–690 (2010)   DOI: 10.1007/s00439-010-0815-6