• 脂質のヒミツ

脂質の役割とは?脂質の種類と体に良い摂り方

監修 仙台白百合女子大学 人間学部 准教授 大久保 剛先生

Image 脂質の役割とは?脂質の種類と体に良い摂り方

「脂質」というと、ダイエットをしている方の中には「悪いもの・できるだけ摂取を控えたいもの」と思っている方が多いかもしれません。たしかに脂質はその名の通り、体の脂肪分となるものですが、脂質は人の生命を支えているエネルギー産生栄養素の一つであり、また、脂質の種類によっては体にプラスの健康効果を与えてくれるものもあります。そこで今回は、脂質の役割や種類について詳しく解説するとともに、体に良い摂取の仕方をご紹介します。

脂質って何?どんな役割をしているの?

Image 脂質って何?どんな役割をしているの?

脂質とは

脂質は、炭水化物・タンパク質と並ぶエネルギー産生栄養素のひとつです。サラダ油やオリーブオイル・ゴマ油・バターといった油脂類や、牛肉や豚肉といった肉類、魚類や魚卵類、一部の野菜や果物、加工食品などに含まれています。

ただし、これらは一口に「脂質」といっても細かく分類されており、それぞれ体内での役割や作用が異なります。この分類については後ほど詳しく解説します。

脂質の役割

脂質は、1gあたり約9kcalのエネルギーを作り出すことができます。これは、タンパク質や糖質の約2倍。非常に効率のよいエネルギー源だと言えます。また、脂質には細胞膜を維持するという重要な機能もあります
さらに脂溶性ビタミンの吸収を助ける、ホルモン・核膜を構成する、皮下脂肪として内臓を保護する、皮膚からの水分蒸発を防ぐ、体温を維持するといった役割も担っています。

脂質を摂りすぎるとどうなる?

脂質はエネルギー量が多いので、摂りすぎるとエネルギー過剰になり、太りやすくなります。また、動脈硬化や脂質異常症といった疾患のリスクも高くなり、さらには糖尿病のリスク増加も懸念されます。1)2)3)4)

脂質を摂らなすぎるとどうなる?

脂質が過度に不足すると、エネルギーの不足により体の消耗が激しくなります。1)3)

脂質の種類

Image 脂質の種類

脂質にはさまざまな種類がある

脂質は、中性脂肪などの単純脂質、リン脂質や糖脂質などの複合脂質、コレステロールやステロイドなどの誘導脂質に大きく分けられます。生きていくために人の体は、基本的には脂質が必要です。過剰に摂取するとよくない脂質はあります。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

脂肪酸は大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。

・飽和脂肪酸

飽和脂肪酸は、エネルギー源として摂る必要がありますが、「摂りすぎると体に悪影響を与える脂肪」です。バターやラード・乳製品・肉など動物性由来の脂に多く含まれています。常温で固まるという特性があります。

・不飽和脂肪酸

一方、不飽和脂肪酸は、全種類がそうという訳ではありませんが「体にとって良い働きをする脂肪」と言えます。魚や魚卵の脂や胡麻油・紅花油・なたね油・オリーブオイルなど植物油に多く含まれています。これらは常温で固まらず、サラサラしています。

次項から、飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸それぞれの特性について詳しく解説します。

飽和脂肪酸とは?摂りすぎるとどうしてダメなの?

Image 飽和脂肪酸とは?摂りすぎるとどうしてダメなの?

飽和脂肪酸は、乳製品や肉などに多く含まれています。飽和脂肪酸もエネルギー源としてとても重要なものではありますが、摂りすぎると体に悪影響を与える恐れがあります。血中総コレステロールが増加し、心筋梗塞をはじめとする循環器疾患のリスクが上がると考えられています。5)

お肉中心の食生活、欧米化した食生活の方は、飽和脂肪酸の摂りすぎに注意が必要です。

不飽和脂肪酸とは?健康に良いものが多いのはなぜ?

Image 不飽和脂肪酸とは?健康に良いものが多いのはなぜ?

不飽和脂肪酸の健康効果

不飽和脂肪酸は、魚や魚卵の脂や、胡麻油・紅花油・なたね油・オリーブオイルなどの植物油に多く含まれています。種類によるものの、「体にとって良い働きをする脂質」とされています。厚生労働省e-ヘルスネットによると「動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、LDLコレステロールを減らすなど、さまざまな作用をもっています。」6)とされており、さらに認知機能の低下を抑制したり、睡眠の質を向上させる効果もあるといわれています。

そんな不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の2種類に分けられます。一価不飽和脂肪酸は体内でも合成できますが、多価不飽和脂肪酸は体内では合成できません。

体内で合成できる不飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸

一価不飽和脂肪酸は、人間の体内で合成できる脂肪酸です。

オメガ9系脂肪酸

一価不飽和脂肪酸の代表的なものには、「オメガ9系脂肪酸」と呼ばれるオレイン酸があります。オリーブオイルに多く含まれています。

体内では合成できない不飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)

多価不飽和脂肪酸はオメガ3系とオメガ6系に大別されます。これらは体内では合成できないことから「必須脂肪酸」とも呼ばれ、食品で摂取することが推奨されています。

・オメガ3系脂肪酸

α-リノレン酸・DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)などがあります。これらは体内で合成できないため、必須脂肪酸と呼ばれています。
α-リノレン酸はアマニ油やえごま油などに、DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)はサバやイワシといった魚の脂、さらには魚の卵にも多く含まれています。

さらに、オメガ3系脂肪酸は細胞膜をしなやかに若々しく保つために欠かせない脂質でもあります。
このほか、DHAやEPAは、上記の健康効果のみならず、睡眠の質を向上させる効果や不安感・緊張感・ストレスを軽減する効果が期待できるとして近年注目を集めています。

・オメガ6系脂肪酸

リノール酸・γ-リノレン酸・アラキドン酸などがあります。(γ-リノレン酸・アラキドン酸は、リノール酸の代謝物です。)厚生労働省e-ヘルスネットによると「γ-リノレン酸・リノール酸・アラキドン酸は体内で合成できないため、必須脂肪酸と呼ばれています。」6)大豆油やコーンオイル・ごま油などに多く含まれています。

脂質の上手な摂り方は?

Image 脂質の上手な摂り方は?

1日あたりの脂質の摂取目安量は?

成人の場合、1日に必要なエネルギー量のうち20〜30%を脂質から摂るのが良いとされています。

ただし、1日に必要なエネルギー量は年齢や性別・体型・日頃の身体活動レベル(たくさん運動をする人なのか、ほとんど運動をしない人なのかなど)によって異なるので、脂質の摂取目安量も変わってきます。

例えば、20代〜40代の女性で身体活動レベルが「ふつう」の方の場合、1日に必要なエネルギー量は約2,000キロカロリー。この場合、脂質の推奨摂取量はおよそ55gです。

脂質量を管理したい方は、まずはご自身に必要な1日あたりのエネルギー量を把握しておくと良いでしょう。

飽和脂肪酸の摂りすぎ・必須脂肪酸の不足に注意

前項で脂質の摂取目安量について解説しましたが、目安量を摂る上でも注意すべき点があります。それは、「どんな種類の脂質を摂るか」です。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「飽和脂肪酸の摂取量が上限を超えないようにすること」「オメガ3系脂肪酸・オメガ6系脂肪酸などの必須脂肪酸が目安量を下回らないようにすること」が重要だとされています。

体に良い脂質を効率よく摂るためにはどうすればいい?

Image 体に良い脂質を効率よく摂るためにはどうすればいい?

脂質と聞くと「太りたくないからできるだけカットしたい」「体に悪いからできるだけカットしたい」と思っている方も多いかと思います。しかし必須脂肪酸は、体の健康維持のために適量をきちんと摂る必要があります。食事メニューに積極的に取り入れるようにしましょう。そのためには、以下のような工夫がおすすめです。

調理に使う油の種類にこだわってみよう

必須脂肪酸を摂取するには、毎日使う油の種類にこだわってみましょう。

【オメガ3系脂肪酸を摂りたい方】

1日の摂取量目安:成人で1.6g〜2.2g

多く含まれるのは:アマニ油・えごま油、魚油

 

ただしこれらは熱に弱いため、加熱料理には不向きです。厚生労働省e-ヘルスネットによると「高温で調理すると大気中の酸素と反応し過酸化脂質となるので、食物として摂る場合、揚げ物や炒め物よりドレッシングなどに向いています。」6)とのこと。サプリメントとしてスプーンでそのまま飲むか、サラダなどのドレッシングとして使用するなどしてください。

【オメガ6系脂肪酸を摂りたい方】

1日の摂取量目安:成人で7g〜11g

多く含まれるのは:グレープシードオイル・コーン油・ごま油

 

このほか、サラダ油でも、「リノール酸配合」と書かれている商品がたくさんありますので、そういったものを選ぶとよいでしょう。

【オメガ9系脂肪酸を摂りたい方】

1日の摂取量目安:厚生労働省では摂取目安量は定めていません

多く含まれるのは:オリーブオイル・紅花油やマカデミアナッツオイル・キャノーラ油

炒め物や揚げ物をする際に使用する油はもちろん、サラダに使うドレッシングにこういった油を使用することで、飽和脂肪酸の摂取をおさえながら不飽和脂肪酸を適正量摂取しやすくなります。いずれもお近くのスーパーなどで購入できると思いますので、ぜひ取り入れてみてくださいね。

1日1回は魚を食べよう

不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸に該当するDHAやEPAは、魚の脂や魚卵にも多く含まれています。お肉の摂取量が多い方は、ぜひ健康のために魚中心の献立を選ぶようにしましょう。

【DHAやEPAを多く含む魚介類】

クジラ・マグロ(脂身)・サバ・サケ・いくら・すじこ・ブリ・ウナギ・サンマ・カツオ・イワシ・イカ・マダイ

【魚や魚卵をどのくらい食べればいいの?】

1日のうち1食は、魚を中心としたメニューにすることをおすすめします。「生魚を焼くのはハードルが高い」という場合は、切り身や開き・干物などを活用すると簡単です。また、いくらやすじこなどの魚卵にもDHAやEPAが多く含まれていますので、ごはんのお供として食べてみてください。ただし、塩分の取り過ぎには注意してくださいね。

【DHAやEPAを効率よく摂取するための、魚や魚卵の食べ方】

DHAやEPAは「酸化しやすい」という特徴があります。そのため、新鮮な旬の魚をお刺身にして食べるなど、生食だと成分が損なわれにくいのです。

なお、焼いたり煮たり揚げたりといった加熱調理をすると、摂取率が20〜50%程度ダウンしてしまうといわれています。

まとめ

脂質というと、「体に悪いもの・できるだけカットしたい」と考えがちですが、脂質は体にとって重要なエネルギー源であり、細胞膜を維持するためにも欠かせない栄養素です。極端に減らしすぎるのではなく、摂取する脂質の種類に気をつけることが大切です。お肉や動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰な摂取は控え、健康効果の高い魚脂や魚卵・植物性油脂(不飽和脂肪酸)は適量をしっかりとるようにしましょう。なお、食事だけでの摂取が難しい場合は、サプリメントなどを利用するのもひとつの手です。ご自身のライフスタイルや食生活にあわせて、チョイスしてみてくださいね。

出典:

  1. 公益財団法人長寿科学振興財団.“三大栄養素の脂質の働きと1日の摂取量”.健康長寿ネット.2016-07-25
  2. 全国健康保険協会.“【脂質】ちょっとした工夫で脂質をコントロール”.全国健康保険協会けんぽ.
  3. 消費・安全局食品安全政策課.“脂質やトランス脂肪酸が健康に与える影響”.農林水産省.2021-11-05
  4. “1-3 脂質”.厚生労働省.
  5. 消費・安全局食品安全政策課.“脂質による健康影響”.農林水産省.2020-04-27
  6. 厚生労働省.“不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)”.e-ヘルスネット.