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視覚機能におけるDHAの役割

Image 進藤 英雄先生

進藤 英雄 先生
国立国際医療研究センター 脂質生命科学研究部 テニュアトラック部長
東京大学大学院医学系研究科 脂質医科学講座 連携教授

医学・医療の進歩は目覚ましく、日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えています。その寿命をより長く健康に過ごすために、エクササイズを生活に取り入れる人や、食事の栄養バランスを考え、さらにサプリメントを摂取する人も増えています。
中でも、青魚に多く含まれるDHAやEPAという脂質成分が脳などの健康によいという話は聞いたことがある人が多いと思います。実はこれらの成分は、眼にも影響があることがわかってきています。
今回は脂質のエキスパート、国立国際医療研究センターの進藤英雄先生に、DHAなどの脂質の特徴とともに、眼に対する影響についてお話しいただきます。

摂取を心がけたい脂質とは?

体内ではつくることができないDHA、EPA

炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質が、私たちが生きるために必要な三大栄養素であることは多くの人が知っていると思います。そのうち脂質は重要なエネルギー源であり、体を構成する一つひとつの細胞を包む「細胞膜」の主成分でもあります。脂質を構成する主要な成分に脂肪酸があり、そこにDHAやEPAも含まれます。
DHAの正式名称はドコサヘキサエン酸、EPAはエイコサペンタエン酸です。DHAやEPAは魚介類の脂に含まれています。また、アマニ油、エゴマ油などにはαリノレン酸という栄養成分が多く含まれており、それらを食べると体内でαリノレン酸がDHAやEPAに変換されますが、直接DHAやEPAを摂取したほうが効率がよいです。αリノレン酸やDHA、EPAは食物やサプリメントなどにより外から摂取しなければ得ることができないため、摂取することが必須の栄養素という意味で、必須脂肪酸とも呼ばれます。

Image 脂肪酸の分解

魚が冷たい海でも泳げるポイントは脂肪酸の種類

脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。飽和脂肪酸は常温では溶けにくく、ほとんどが固形状態にあります。例えば、肉類の脂、バター、チョコレートなどがそれに当たります。
一方、不飽和脂肪酸は常温では液状で存在し、オリーブ油の主成分であるオレイン酸をはじめ、ひまわり油やコーン油に多く含まれるリノール酸がよく知られています。DHAやEPAも不飽和脂肪酸で、魚は低温でも固まらないDHAやEPAを体に蓄え、冷たい海の中でも活発に泳いでいます。

Image 魚が冷たい海でも泳げるポイントは脂肪酸の種類

脂肪酸の種類とその違い

脂肪酸の構造は炭素(C)が鎖状につながっているのが特徴で、つながっている炭素の数の違いによって、短鎖脂肪酸(炭素数6未満)、中鎖脂肪酸(炭素数6~12)、長鎖脂肪酸(炭素数13~21)、超長鎖脂肪酸(炭素数22以上)に分かれます。
この炭素がつながっている結合の形が、飽和脂肪酸では単結合のみの鎖ですが、不飽和脂肪酸では二重に結合している部分(二重結合)が鎖の中に1つ以上あります。

Image 脂肪酸の構造

例えば、DHAは炭素が22つながっており、その中に二重結合が6つもあります。そのことは、下図のように(C22:6)などと表します。二重結合の数の違いで脂肪酸の種類分けはされていますが、それが私たちの体への影響としてどのように違うのかについては、まだ十分にはわかっていません。

Image 哺乳動物が保有する代表的な脂肪酸

サラサラな脂とそうでない脂

固体が液体に変わる温度を融点といいますが、鎖状につながる炭素の数が増えると脂肪酸の性質が変わり、脂肪酸の種類が変わるとともに、融点も高くなっていきます。ところが、二重結合が増えると一気に融点が下がります。二重結合が1つあるオレイン酸の融点は13.4℃ですし、2つあるリノール酸の融点は-0.5℃です。オレイン酸やリノール酸は常温でも液状で、サラダ油としてよく使われています。

Image 二重結合が多いと融点も低い
新井洋由 他. 実験医学別冊:脂質解析ハンドブック. 2019. 羊土社. p50より改変

さらに、二重結合が5つあるEPAや6つあるDHAは融点が非常に低いので、いつもサラサラな脂肪酸ということになります。魚の刺身は、冷蔵庫で冷やしても脂が固まることはありません。一方、牛や豚の肉を焼くと脂は液状になりますが、お皿の上にしばらく置いておくと、室温でも脂が白い塊になってしまいます。これは脂肪酸の性質の違いによるものです。

Image お皿の上の刺身の脂はさらさら、肉の脂は白くなる

眼の健康を保つために必要な2つの脂肪酸

眼の網膜に必要不可欠な脂肪酸、DHA

私たちの体を形づくっている細胞の膜は基本的に、脂肪酸とリン酸が結合した「リン脂質」と呼ばれるものでできています。このリン脂質に含まれる脂肪酸の種類や量は、臓器によって異なります。眼の網膜にはDHAを含むリン脂質が多く、マウスの実験では胎児から成長に至る過程でどんどん増えていくことが確認されています1)。逆説的に言うと、網膜において、DHAを含むリン脂質が必要であると考えられます。

DHAを含むリン脂質が正常な視覚機能の鍵

ヒトの眼は、外界からの光などの情報を受け取ると、網膜の桿体(かんたい)細胞が明暗を認識し、錐体(すいたい)細胞が色彩を判別し、その情報が脳に伝達されます。この桿体細胞と錐体細胞を合わせて視細胞といい、これらの細胞ではディスクと呼ばれる円盤状の組織がいくつも重なって層を成しています。外界からの視覚(光)情報は、そこを通ることで認識されます。

Image 網膜の構造

視覚機能が正常だとディスクの層はきれいに重なっていますが、層が波打っていたり、おかしな方向を向いていたりすると視覚機能に異常があることがわかっています。ディスクの組織はDHAが豊富なリン脂質でできていますが、常に新しいリン脂質に入れ替わり続け、その量を維持することで、視細胞は健康な状態に保たれています2)

網膜に必要なもうひとつの脂肪酸、パルミチン酸

DHA以外に網膜に必要なことがわかっている脂肪酸が、パルミチン酸です。網膜のパルミチン酸の維持に必要な遺伝子がなくなると、視細胞がその機能を果たさなくなってしまうことから3)、パルミチン酸は網膜の視覚機能維持に欠かせない脂肪酸であると言えます。しかし、このパルミチン酸は飽和脂肪酸であり、DHAなどの食事から得る必要のある必須脂肪酸のように意識して摂取する必要は大きくありません。

DHAの摂取を意識しましょう

DHAは摂取しないと必要量を維持できない

このように、網膜の視細胞にとって重要な脂肪酸であるDHAとパルミチン酸のうち、DHAが減少すると視細胞のディスクに異常が起こり、視覚機能障害につながります。一方、パルミチン酸が減少すると視細胞の機能不全が進行し、視覚機能が失われていきます。 パルミチン酸は動植物中に広く分布し、さらに摂取した食物をもとに体内でも常に合成されるため、意識して摂取せずとも不足することはまずありません。
しかし、DHAは体内で合成されない必須脂肪酸であり、必要量を摂取するためには外から体内に取り入れなければなりません。

DHAを効率よく摂取するには

DHAはサンマ、サバ、アジなどの青魚に非常に多く含まれています。アナゴやクロマグロなどからも摂取できます。ただし、煮たり焼いたりすると一定量が流れ出し、揚げ物にするとより減ります。効率よく摂るには、刺身で食べることをお勧めします。もちろん、そればかり食べるのではなく、野菜やお肉など、他の食材も一緒に食べたほうが栄養のバランスもよりよくなります。食事のみから摂りきれない場合には、サプリメントで補うという方法もあります。ご自身の生活に合った方法で、日頃からDHAの摂取を意識しましょう。

Image DHAを効率よく摂取するには

出典:

  1. Hamano F, et al. J Biol Chem. 2021; 296: 100303.
  2. Shindou H, et al. J Biol Chem. 2017; 292(29): 12054-12064.
  3. Nagata K, et al. J Biol Chem. 2022; 298(6): 101958.