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DHAの効果とは?EPAとの違い、多く含まれる食品も

監修 仙台白百合女子大学 人間学部 准教授 大久保 剛先生

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みなさんは、「DHA」にどんなイメージを持っていますか?「頭をよくする栄養素」「学習能力や記憶力を上げるのに効果的な栄養素」といったイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

たしかにこれは正しいのですが、実はDHAの効果はそれだけでありません。

そこで今回は、あまり知られていないDHAの効果について詳しく解説します。あわせて、DHAを多く含む食品や効率的な摂取の仕方についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

DHAって何?

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まずは、DHA とは何かについてご説明しましょう。

DHAは、「不飽和脂肪酸(※1)」のひとつ。正式名称はドコサヘキサエン酸。マグロやサバ・鮭・イワシといった魚や、イクラやすじこといった魚卵に多く含まれています。体内では合成できない成分であるため、必須脂肪酸とも呼ばれています。

ご存知の方も多いかと思いますが、DHAは記憶力や認知能力・記憶力の改善に効果があるといわれています。1989年にイギリスのマイケル・クロフォード氏という脳栄養科学の教授が、「日本の子供の知能指数が高いのは、日本人が魚をたくさん食べているからではないか」という説を唱えたことをきっかけに、DHAへの関心度が高まり、各国で研究が行われるようになりました。

※1:不飽和脂肪酸とは
不飽和脂肪酸は、脂質の種類のひとつ。全種類がそうという訳ではありませんが「体にとって良い働きをする脂質」で、厚生労働省e-ヘルスネットによると「動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、LDLコレステロールを減らすなど、さまざまな作用を持っています。」1)と示されています。

DHAが体に与える健康効果とは

Image DHAが体に与える健康効果とは

DHAには、以下のような健康効果があると考えられています。

記憶力や言語能力・学習能力の向上

DHAには脳の神経細胞を活性化させる作用があり、記憶力や学習能力・言語能力などに良い影響を与えるとされています。

視力回復

DHAは目にとっても大切な栄養素で、目の網膜に含まれる脂肪酸の約4割を占めるとされています。そのため、DHAを摂取すると視力回復に好影響をもたらすと考えられています。

睡眠の質の改善

DHAは睡眠の質の改善にも良い効果を与えると考えられています。

夜になると、人の脳内では睡眠を誘発するホルモン「メラトニン」が分泌され、その影響で眠くなります。しかしこのメラトニンは、精神的なストレスや不規則な生活習慣などさまざまな影響により正常に分泌されなくなってしまいます。そしてその結果、「なかなか寝付けない」「夜中に目が覚めてしまう」といった睡眠の質の低下が見られるようになります。

近年の研究により、DHAには、脳内でメラトニンの分泌を促進する効果があることがわかっています。メラトニンの分泌が促進されることで、レム睡眠(夢を見たり記憶の整理をしたりする眠り)の質が維持・改善され、時間も長くなります。レム睡眠の時間が長いほど、次のノンレム中の深い睡眠が増えて、睡眠の質が改善される効果が期待できます。

DHA とEPA(エイコサペンタエン酸)の違いは?

Image DHA とEPA(エイコサペンタエン酸)の違いは?

よくDHAと並んでいるのがEPA(エイコサペンタエン酸)と呼ばれる栄養素です。EPAもDHAと同様、魚に多く含まれる不飽和脂肪酸です。EPAは血小板凝集抑制効果が高く、動脈硬化や脳梗塞の予防効果が高いとされています。2)

「記憶力や学習能力・認知能力に関する効果もほしい、でも動脈硬化や脳梗塞予防もしたい」という方は、両方をしっかり摂取すると良いでしょう。

DHAを積極的に摂取すべき人とは?

Image DHAを積極的に摂取すべき人とは?

前述したようにDHAは様々な効果を示しますが、DHAは体内で合成するのが難しい成分です。魚をはじめとする食品やサプリメントなどでDHAを積極的にとることが推奨されるのは、以下のような方です。

DHAを積極的に摂るべき人

  • 生活習慣病が気になる人
  • 中性脂肪やコレステロール値が高い人
  • 物忘れや記憶力の低下を防ぎたい人
  • 集中力を維持したい人
  • 学習能力に良い影響を与えたい人
  • 睡眠の質を改善したい人
  • 目の健康を維持したい人

現代人はみんなDHA不足かも?

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日本人の魚の摂取量は、年々減っている

みなさんは日頃、お肉とお魚どちらを多く食べているでしょうか?現在の日本人はお肉を食べる頻度・量が増えて、魚を食べる頻度・量が減っています。厚生労働省の調査によると、昭和50年の1人あたりの1日の魚介類の摂取量は94g程度でしたが、令和元年には64gにまで落ち込んでいます。反対に肉類の摂取量を見てみると、昭和50年には64g程度でしたが、令和元年には103gにまで増加しています。

魚を食べる量が減ったことで、DHAを十分にとれていない人がいると予想できます。普段魚をあまり食べない人は、意識的に魚のメニューを選ぶようにしたり、魚が苦手な人・なかなか食べる機会を作れない人はサプリメントを活用したりしてDHAを積極的に摂取した方が良いでしょう。

飽和脂肪酸の過剰摂取を防ぐ意味でも、お魚をしっかり食べるべき

また、先の調査では、平成22年前後から、お肉とお魚の摂取量の逆転が見られます。平成22年を境に、お肉の摂取量がお魚の摂取量を上回るようになったのです。

平成以降、生活習慣病やメタボリック症候群が社会問題となっていますが、この背景には、このような日本人の食生活の変化、つまり魚食から肉食への変化があると言われています。

お肉の脂肪には、「飽和脂肪酸」という、摂りすぎるのはよくない脂質が多く含まれています。お肉中心の食生活は、血中総コレステロールを増加させ、心筋梗塞をはじめとする循環器疾患のリスクを上昇させる恐れがあるのです。

飽和脂肪酸のとりすぎを防ぐという観点からも、お肉中心の食生活からお魚を食べる食生活に切り替えるのが望ましいと言えます。また、以下で詳しく解説するように、DHAは魚卵にも多く含まれています。魚だけでなく魚卵も積極的に摂取すると良いかもしれません。ただし、塩分の取り過ぎには注意が必要です。

DHAが多く含まれる食材・食品は?

Image DHAが多く含まれる食材・食品は?

DHA は1日あたりどのくらい摂取すればいい?

DHAの1日あたりの摂取目安は、1g〜1,5g程度。体内では作れない栄養素のため、食品から摂取する必要があります。

DHAを多く含むのは、魚の脂や魚卵

DHAが豊富に含まれるのは、魚の脂や魚卵です。以下、可食部100gあたりのDHAの含有量について解説します。

  • 焼鮭:550mg
  • ひらめ(天然・生):290mg
  • ぎんだら(水煮):370mg
  • すじこ:2,400mg
  • イクラ:2,000mg
  • 新巻鮭(生):730mg

 

※文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)脂肪酸成分表」を元に作成

魚を選ぶなら、脂がしっかりのったものを

DHAは魚の脂に含まれているので、脂がしっかり乗った魚がおすすめです。ぜひ週に3回程度は、献立に魚を取り入れましょう。なお、DHAは加熱によって成分が減少したり酸化したりしやすい脂質です。そのため生食のほうが成分は損なわれにくいと言えます。

また、意外かもしれませんが、DHAはイクラやすじこといった魚卵にも豊富に含まれています。魚卵に含まれるDHAは魚の脂に含まれるDHAとは異なり、加熱しても成分の減少や酸化が起こりにくい、という特徴を持っています。

缶詰も便利でおすすめ

普段魚を食べる習慣がない人や一人暮らしでキッチンがせまい人などの場合、おうちで魚を調理するのは少しハードルが高いかもしれません。そういった方には、魚の缶詰がおすすめです。さばの水煮缶やいわしの味付け缶・さんまの蒲焼缶・鮭の水煮缶などは、原料の魚にDHAが豊富に含まれています。賞味期限も長くて手軽に使えるので、ぜひ試してみてください。

なお、缶詰を使うときは、魚の身だけでなく缶汁も捨てずに活用しましょう。汁ごと鍋に移して野菜と煮込んだりスープにしたりすると、汁に含まれるDHAまで余すところなく食べられます。

DHAを摂取する際のポイント・注意点

Image DHAを摂取する際のポイント・注意点

DHAは朝に摂るとより効果的?

最近の研究では、DHAを含む魚油をマウスに朝食または夕食に摂取させたところ、朝食時の魚油が果糖の過剰摂取によって引き起こされる脂質代謝異常をより効率的に改善すると判明しています。また、朝食時の魚油の摂取が、夕食時の魚油の摂取よりも血中のDHAやEPA濃度を高める効果があることも確認されています。3)

まとめ

DHAについて、「頭をよくする栄養素」「学習能力や記憶力を上げるのに効果的な栄養素」といったイメージを持っていた方が多いと思いますが、今回ご紹介したように、DHAには他にもさまざまな効果があります。中性脂肪やコレステロールの低減効果・視力改善・睡眠改善など、現代人にとって嬉しい作用がたくさん。気になる方は、毎日DHAをしっかり摂取できるよう、お魚の献立を増やしたり、サプリメントを活用したりしてみてください。

出典:

  1. 厚生労働省.“不飽和脂肪酸(ふほうわしぼうさん)”.e-ヘルスネット
  2. 森田育男,室田誠逸.“魚油の動脈硬化性疾患予防効果”.J-STAGE.
  3. 国立研究開発法人産業技術総合研究所.“魚油による脂質代謝改善効果が摂取時刻によって異なることをマウスで発見”.研究成果記事一覧.2016-11-01